最近、協同学習に興味を持ったため、江利川春雄著『協同学習を取り入れた英語授業のすすめ』を読み、自分の考察を加えながら以下でまとめる。(というか、まとめていくうちに、どんどん自分の考えが混合し、分け損ねたので、そのまままとめた。)
協同学習が生まれる背景は?
協同学習が生まれる背景は、昨今の教育問題に対する教育再生の糸口の1つとして広まっている。
ユニセフの「子どもたちの幸福度調査(2007)」によれば、日本の子どもの幸福度は先進21カ国で見て、最低レベルであり、約30パーセントの子どもが孤独を感じていることが報告された(幸福度1位のオランダは3パーセント)。これは「新自由主義」の蔓延による子どもたちにかかるプレッシャーによる影響が考えられる。子どもたちは学校の中で、習熟度別指導や試験による強制等に見られる「競争」を盛り込んだ授業により、劣等感や差別感を感じざるを得ない。この「強いられた勉強」で満ちた学校で、子どもの学びへの諦め、学力の低下、コミュニケーション能力の弱体化、生徒の問題行動が近年、特に目立ち始めた。
従来の<競争と格差>を<協同と平等>に転換し、子どもが生涯にわたって学びを楽しむ方向転換が急務である。強いられた「勉強」から、生徒が主体的に取り組む「学び」へのシフト、その教育再生に協同学習が注目されつつある。
協同学習とは何か?
協同学習とは、簡潔に言えば、「少人数グループでの学び合いによる学習」である。ただし、この言い方では、単なる「グループ活動」と混合されるおそれがあるため、以下では協同学習での特徴を4つ挙げる。
1. 主体的で自律的な学びの構え
2. 確かで幅広い知的取得
3. 仲間とともに課題解決に向かうことのできる対人スキル
4. 他者を尊重する民主的な態度
協同学習では、授業の内容を「勉強」するというよりも、自ら考え「学ぶ」機会に焦点が置かれている。そして、この「学び」の機会は、教師の講義からではなく生徒間で生じさせることが不可欠である。また、生徒同士で、互恵的相互依存の関係を構成することまでを学習の対象にしたのが協同学習である。簡潔にまとめるならば、「広い意味での「学力」を身につけるための姿勢に重きを置いた学習」か。
協同学習のメリットは?
・ 学びの中で、生徒間に建設的な支えあいを導入できる
「互恵的相互依存」が求められる協同学習では、生徒間で、教え合える人間関係の構成することが求められる。昨今の、教室に「競争・格差」が根底にある状態では、生徒同士は常に仲間とは限らない。この側面を「協同・平等」に変え、学びの中で、生徒間で円滑な関係を構成できる。この中で「多様な人々が協同する生き方」を学校内・授業中で実現できる。
・ 個人の力では到達できない高い目標を達成させる
高いレベルの目標を設定することで、個人では不可能な次元のレベルを、生徒が達成し、その労苦に応じた「学びの快楽」を得ることができる。
・ 小集団でのコミュニケーション力を育成
英語という教科を超えたコミュニケーション力を育成する。
・ 強制された「勉強の苦痛」から自ら「学び」の喜びを覚える
子どもにプレッシャーをかけるような、従来の習熟度別指導・試験による強制などの授業設定は、常に生徒に「勉強の強制」をかけていた。強いられた「勉強」から、主体的な「学び」へシフトし、生徒に学びの快楽を経験させることができる。
(英語科で)協同学習を行う上での問題点は?
英語教育での協同学習が困難であると言われる原因に、「英語=道具・技能」という発想が根幹に存在し、教科書に内容がないことが挙げられる。そのため、教師の時間をかけた教材研究により、扱われている教材を掘り下げ、内容を濃くし、学びの質を高めていかなければならない。
英語科の協同学習を取り入れる上で、留意すべき点は?
1.
一斉授業と協同学習の組み合わせる(場合によっては一斉授業の中に内容のあるディスカッションや相談といった形で、協同学習を盛り込む機会を見出す)
2.
グループ分けに工夫する・日本語による話し合いを織り交ぜる・個人の責任を明確化するなどにより、苦手意識を持つ子のも役割を与える
3.
一人では到達できない高いレベルを求めたり、短期間だけでなく、長期間に渡る課題を課す、タスクの評価法に個人やグループの伸び率を加えるなど、タスクの設定を工夫する
4.
他クラスや他教科、保護者や地域住民までを巻き込み活性化する。その際、教科の壁、教師間の壁、学校が持つ保守性が導入を妨害する可能性があるので、成果を確認しながら、または授業を公開し同僚性を高めながら、周囲に浸透させていかなければならないことも
5.
内容が薄い教材を教師自身が掘り下げ、学びの質を高めなければいけない。
6.
グループ内で振り返りを徹底する
7.
旧式の教室環境を改善せざるを得ない
8.
まずは、実践事例の活動を参考に
実際の本には、多くの活動事例が小中高に渡って紹介されていました。し、解釈がズレていたり、本に書いてなかったことも書いている可能性が高いので、あしからずです。
なるほど、協同学習はそういう背景(約30パーセントの子どもが孤独を感じていること)があって注目され始めたのですね。
返信削除この記事を拝読し、2つの疑問が生じました。
1つ目
【協同学習によって、今の時代のニーズに沿う能力を育成できるが、生徒やその親からの需要はあるのか。】
「協同学習のメリットは?」に“強制された「勉強の苦痛」から自ら「学び」の喜びを覚える”とあります。今の時代、競争する社会ができあがってしまっているので、“強制された勉強の苦痛”から逃れることは相当難しいことだと思います。競争に勝つためには、知識をかき集めて受験という戦いの場に備えなければなりません。
そのため、供給側(競争社会をある程度終えてきた教師という存在)は生徒に協同学習を通して上に挙げられた能力をつけてやりたいでしょうが、需要側(受験に備えている生徒)はそんなことをしている暇はない、と下手をすると感じてしまうのではないでしょうか。対人コミュニケーション能力や課題解決能力はつくし、それらは紛れもなく大切な能力ですが、受験がこどもたちのすぐ未来に控えている状況でそのようなことをやっている時間はあるのか。
この課題をどう解決すればよいのでしょう...
2つ目
これは個人的な質問なのですが、私が「協同学習」と聞いて思うのは
・例えば小学生が「環境問題」について班で調べて発表する
・図工や美術で協力して創作する
といったようなイメージなのですが、【高校で英語教師が行う協同学習とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。】
簡単に教えていただけると幸いです。
つい長文になり申し訳ございません。
拙い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
削除疑問点に関してお答えさせて頂きます。
1点目
【協同学習によって、今の時代のニーズに沿う能力を育成できるが、生徒やその親からの需要はあるのか。】
実際に協同学習は日本の学校でも始まっています。その実践校の中には進学校も含まれており、協同学習を行った方が生徒が積極的に授業に取り組むようになった、学力が低い生徒にとってはより効果があった、という教師の報告が出ているようです(具体的な数値は出ておらず、教師の感覚を元にしたもので、実績は明記されていませんでした。短期的な実践ですので、明確な数値での伸びは出ていないのかもしれません。)
「強制された勉強」から「学び」の喜びを知った結果は、単なる詰め込みの受験勉強より効果があったように、本では紹介されていました。
(ただし、実際にどれくらい上がったのかは明記されていなかったため、今後広く展開されていき、より「確実に伸びる」という結果が求められそうです。現行の教科書で協同学習を行うためには、教師がかなりの教材研究しなければいけないと思われます。学力向上は教師が授業に万全の準備を行った賜物、という可能性もありますし。)
現段階で、具体的な成果が出ていないため、生徒や親からの需要に関してはわからないです。ひとまず、この本をきっかけに、より多くの学校が取り組み、明確な数値の報告をもとに、世間で需要を高めないと話題には上がらなさそうですね。
2つ目
【高校で英語教師が行う協同学習とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。】
1.
東京大学教育学部付属中等教育学校 高校2年生を対象に行われた授業です。
目標は
映画『独裁者』制作の背景を読み取り、今の自分の生活と重ね合わせながら演説の内容を理解し、自分でも音読の中で演説の表現を楽しむ
というものです。題材がかなり難しく、グループで協力しながらの全体理解が求められ、なおかつグループでフィードバックしながら音読の自己表現を高める活動を行ったようです。
2.
北海道北見北斗高等学校 英語科全体で行われているもの。
文法訳読式の授業の中に、様々な活動を取り入れているようです。具体的には以下の活動です。
・読み取りにくい表現について、パラフレーズしあったり、臨場感あふれる日本語に翻訳しあう。
・ペアによる音読練習をし、意味の塊ごとにペアで「英→日」「日→英」を素早く行う
・「内容に関する意見」の英文を教師がまとめ、クラス全体で共有する
・難易度の高い正誤問題を知恵を出しあって解く
等です。
どの高等学校での実践も、「難易度の高い学習を生徒同士で協力し合い、解決する」ことが基盤になっているようです。