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2013年6月27日木曜日

テスティングにおける妥当性の基礎知識

以下の内容は、大学院での授業 特別研究[内容学] で作成した資料を一部改編したものである。

 妥当性とは、ある特定のテスト、あるいはテスト内の下位部門が意図した測定対象を適切に測定しているか否かを指す。テストは常に意図した測定対象を伴うために、妥当性とは常に特定の目的に対して検証する必要がある。妥当性を検証するにあたって、できる限り多くの側面から証拠を挙げることが好ましい。以下では、妥当性を内的妥当性(internal validity)・外的妥当性(external validity)・構成概念妥当性(construct validity)の3つに分類し、それぞれの側面から妥当性とその検証法を示す。

1.  内的妥当性
 内的妥当性は、対象となるテスト内における項目・要素から適切かどうかを判断する妥当性である。内的妥当性の代表例に、表面妥当性(face validity)・内容妥当性(content validity)・応答妥当性(response validity)の3つが挙げられる。

1.1        表面妥当性
表面妥当性は、テストの見かけがそれらしいか、という素人の直観に基づく妥当性である。この表面妥当性が高いと見えるならば、低い場合に比べ、受験者はそれだけ真剣に解答に取り組むことが予想され、後述する応答妥当性も高くなると考えられる。表面妥当性は非科学的であると排除されがちな分野であったが、コミュニカティブテスト(CLT)の広まり・応答妥当性まで踏まえると、確認すべき重要な項目となってきている。
表面妥当性の検証は、受験者・実施者をはじめとしたテスト使用者へのアンケートやインタビューをもとに、態度や情意反応に関するデータを集め、各セクションや項目ごとの受容度を算出することで行われる。

1.2        内容妥当性
内容妥当性とは、第三者としての専門家がテストの測定にかかわる内容が適切かどうかを判断した妥当性である。この内容妥当性は、テスト細目・カリキュラム・作成者の意図・専門家の判断を比較する中で考えられる。これらを比較する際には、判断基準を明記しなければならない。
以下では、内容妥当性の検証方法の一例として、Bachman, Kunnan, Vanniariajan, Lynch(1988)が、ある2つのテストの内容妥当性を比較するために行った手法を示す。まず、彼らはテスト内容を検証するため、言語コミュニケーション能力(CLA, Communicative Language Ability)尺度・テスト方法特徴(TMC, Test Methods Characteristics)尺度という2つの尺度を作成した。前者の言語コミュニケーション能力尺度では、受験者がテストを解く際に求められる能力から5項目―文法・テキスト・発話内行為・社会言語・言語方略―に関して、それぞれの複雑さの観点から、判断者による5段階尺度で評価される。後述のテスト方法特徴(TMC)尺度では、テストの項目・テスト文章に関連した4項目―テスト環境・テスト指示・項目の種類・テストの入力―に関して、それぞれの複雑さと出題頻度の観点から、判断者による3段階尺度で評価される。なお、テスト入力に関しては、さらに6つの下位項目-言語の複雑度・文章構造(rhetorical organization)・文脈化の度合い(degree of contextualization)・テストのトピック・文化的バイアス・語用論的特徴―が存在する。

5段階評価

3段階評価
                                                  
図        Bachman, Kunnan, Vanniariajan, Lynch(1988)における
内容妥当性検証のために用いられる尺度

内容妥当性における検証法を一般化すると、以下の3点として挙げられる。
a.    テストの内容を、シラバスや細目と比較する
b.    授業を実施した教員・科目の専門家・応用言語学者にアンケートやインタビューを行う
c.     専門家が明確な基準をもとに、テスト項目とテキストを評価する

1.3        応答妥当性
応答妥当性とは、受験者がどのような思考過程を辿ってテストを解いているのかを理解することによって、テストが何を測定しているのかを示した妥当性である。それぞれの問題において、テスト作成者の意図した項目が、受験者に適切に解釈されているかを明らかにすることで、妥当性を考えることができる。例えば、クローズテストのそれぞれの空欄を埋めるのに必要な能力について、テスト作成者が想定した能力とは異なる能力を用いて、受験者が解答していた場合には、テストの妥当性は高いとは言えない。
検証法として、テストの最中に思考を発話させて分析を行う・テスト後に録画された受験過程を確認しながらインタビューを行うことが挙げられる。

2.  外的妥当性
外的妥当性は、対象となるテスト外における要素からテストが適切かどうかを判断する妥当性である。外的妥当性の代表例に、併存妥当性(concurrent validity)・予測妥当性(predictive validity)の2つが挙げられる。外的妥当性検証は、相関係数を用いて分析されることがほとんどである。

2.1        併存妥当性
併存妥当性とは、ある受験者から得られた成績と、ほぼ同じ時期に得られた別の測定値を比較し得られた妥当性である。比較するデータは、対象となるテストから独立したものを採用しなければならないため、互いに近い関係にあるテストでない限り、その相関関係から得られる妥当性係数は+0.50 +0.70程度になるのが通常である。比較に用いるデータは、他のテストの結果以外にも、自己評価・教師の評価・同じテストの別の型を使用することができる。併存妥当性で明らかになった内容を用いる利点は大きく2つ挙げられる。1点目に、比較対象のテストが入手しづらい・使用しづらい場合に転用できる可能性が明らかとなることが挙げられる。(e.g. TOEFLの受験は一般校では困難なため、併存妥当性が認められた別の安価な試験での成績を目安として代用する) 2点目に、定期的に新しい試験を作成していかなければならない場合に、過去のテストと測定している能力が異なっていないかを確認できる。(e.g. 毎年異なる問題を作成しなければならない入試において、新・旧形式の試験での相関関係で+0.90以上の併存妥当性が見られ、測定する能力や難易度が大きく変わっていないことが確認できる場合に、新形式の試験を採用することができる) また、テストの結果と、教師による評価・受験者の自己評価を確認することで、両者の結果の関係を明らかにすることも可能である。教師の評価・受験者の自己評価における数値は、通常アンケートを用いることになるが、その数値の求め方は特に留意しなければならない。
併存妥当性の検証法をまとめると、以下の3点がとして挙げられる。
a.    同一の受験者が受けた2つのテストの結果の相関をとる
b.    受験者のテスト得点と教師の順位付けの結果との相関をとる
c.     受験者の受験者自身の評価数値との相関をとる

2.2        予測妥当性
 予測妥当性とは、主に熟達度テスト内において、受験者が得たスコアが将来どのくらい発揮できるかを予測した妥当性である。検証方法として、同一の受験者に対し、一定期間後再度テストを行うことが挙げられる。また、後日テストを行うのではなく、クラス編成後の成績の伸びや教師による評価をもとに予測妥当性を求めることも考えられる。共通して言えることは、一定期間経った際の学習者の変化の予測がその結果と一致しているかどうか、ということである。しかし、予測妥当性の検証には大きく3つの問題点が含まれている。1つ目の問題点に、受験者全員に再テストを行うことが難しいことが挙げられる。(e.g. 留学前の審査に用いられるIELTSTOEFLを留学後の生徒に行った場合には、上位の生徒の予測妥当性しか回収できない) 2つ目の問題点に、後日テストでは、受験者の言語能力以外での能力自体が上がっていることが考えられ、予測妥当性を低くする影響が考えられる。3つ目の問題点は、後日テストの性質が異なるテストを採用した際に限られるが、前後のテストで測定される能力が異なっているため、他の要因が影響することが考えられる。(e.g. TOEFLでの予測妥当性として、先行研究ではGPA(各大学での学期ごとの成績の平均値)を用いることが多いが、GPAには言語能力以外の多くの要素が含まれる。) その他の留意点に、この予測妥当性は一般的にそれほど高い数値にならないことが通常であるため、+0.30程度の数値でも妥当性が見られる、と解釈せざるを得ない場合がある。
予測妥当性の検証法をまとめると、以下の3点として挙げられる
a.    後日受けさせたテストとの両テストとの得点の相関をとる
b.    テスト得点と、しばらくしてからの教師の評価との相関をとる
c.     (クラス編成テストの場合)クラス編成後の成果との相関をとる

3.  構成概念妥当性
 構成概念妥当性はテストの構成そのものに関与する妥当性であるために、上記に挙げた内的妥当性・外的妥当性を統合した上位概念と捉えることができる。構成概念妥当性を検証することは、テストがどの程度理論と合致し、理論を適切に操作化(operationalisation)しているかを検証するプロセスである。以下では、この構成概念妥当性における検証法を6点挙げる。
a.    理論における各構成能力を測定した得点同士の相関をとる
b.    理論における各構成能力を測定した得点と、テスト全体の得点の相関をとる
c.     理論における各構成能力を測定した得点と、その得点をテスト全体から引いた得点と相関をとる
これらの手法は、テスト内の部門に注目し相関をとる点で共通している。テスト内で設置した異なる部門は、異なる能力を測定しているという前提があるため、その相関が+0.30+0.50と低くなるのが通常であり、+0.90などの高い相関が得られた場合には、各部門が同じ特性あるいは技能を測定していることを疑う必要がある。一方で、各部門とテスト全体の相関は、後者がより一般化された能力を測定しているはずなので、+0.70のような高い相関関係が予想される。このテスト全体には、相関関係を求めたい各部門が含まれているため、その分、各部門の相関は高くなっていることが懸念されるため、内的相関にもとづく検証では、「各部門で得られた得点」と「当該部を引いたテスト全体の得点」の相関を求める方が適切である。
d.    テスト得点と学習者のバイオデータ・心理的特性などとの相関をとる
この手法では、相関を扱うという点で上記の方法と共通しているが、相関に用いる数値がテスト以外での、受験者の背景から導き出される点で異なる。受験者の背景―性別・年齢・母語・学習年数など―はテストの結果に影響を与えていることが考えられる。これらのバイオデータが、構成概念妥当性に影響を及ぼす要因を確認しておくことは重要である。また、理論的に関係のある心理特性に注目し、相関を用いる方法もある。たとえば、適性テストの文法感受性(grammatical sensibility)を測定する部門と、それに関連した帰納的学習能力を測定する部門の結果と比較する。このような関連した部門同士はより高い相関を示すことが予想される。
e.     多特性多方法分析を行う
Bachman(1990)の「構成概念妥当性を相関係数を使って設計する古典的アプローチ」、またはCampbell & Fiske(1959)の多特性多方法分析(multitrait - multimethod matrix)を用いることで、収束妥当性(convergent validity)という観点から妥当性を検証することができる。収束妥当性とは、互いに関係のあるテスト同士は高い相関を示し、また関連のないテストでは相関が低くなる、という妥当性である。よって、この多特性多方法分析では、同受験者における、検証する対象のテストでのスコアと同時に、あらかじめ妥当性が明らかにされたテストでのスコアが必要となる。細かい手法に関しては、複雑な統計が絡み、理解が及んでいないので割愛する。
f.     因子分析を行う
因子分析(factor analysis)を用いることで、各因子の関係性をグループに還元できる。行数関数と統計的操作を行う中で、各下位部門での関係性を負荷量(factor loadings)という観点で見出すことで、言語能力のどの側面がどの側面に、どのように関係付けられているのかを予測し、構成概念妥当性の検証を行う。(原理は複雑なため、細かい部分まで理解が及んでいないので今回の発表では割愛させてもらいます。)

4.  妥当性と信頼性の関連
 ここでは、妥当性と信頼性の関連を考える。信頼性とは、テスト全体の首尾一貫性である。しかし、信頼性を高めると妥当性が下がってしまうという問題が考えられる。
 信頼性において重要な観点に、採点における一貫信頼性が挙げられる。採点における測定結果は常に一定の質を保つべきである。しかし、信頼性を最大にするためには、妥当性を犠牲にしなければならない場合が多い。(e.g. 多肢選択問題の数を多くすれば、採点の際の信頼性は高まるが、実際の言語使用能力を図るには不自然な設定になってしまい、妥当性は下がってしまう。)
 また、信頼性の観点には、テスト全体の内部一貫性(consistency reliability)も挙げられる。信頼性においては、テスト全体の項目が均一である方が適切であるとみなされる。しかしながら、3.3構成概念妥当性で述べた通り、各項目が異なる能力を測定している場合においては、異なる下位部門を構成する能力を測定しているため、相関関係は低い方が適切とみなされる。

 妥当性と信頼性の関連において留意しておかなければならない点は、テストの目的に応じて重みづけを考慮し、折り合いをつけることが必要となることである。テスト作成の際には、テスト細目で明記されているテストの設定条件をもとに折り合いをつける必要がある。(なお、本資料では、テスト作成者に求められるテスト細目の説明を省略している。)


参考文献
J. Charles Alderson, Caroline Clapham, Dianne Wall ;Language Test Construction and Evaluation
渡部良典翻訳 言語テストの作成と評価 あたらしい外国語教育のために

2013年6月23日日曜日

-地方私立大学での文法構文の頻出度と出題形式- 2013/06/22中国地区英語教育学会発表

2013/06/22 () 中国地区英語教育学会
広島大学大学院 教育学専攻 英語文化教育学専修
 吉川良太

            -地方私立大学での文法構文の頻出度と出題形式-


1.      導入

1.1     背景
近年、高校生の進学率は高い。文科省の平成24年度学校基本調査によれば、平成24年度の高校生の大学・短大への進学率は、過年度卒まで含むと56.2%であり、この数値は過去10年間で増加傾向にある。社会的な要望を考えると、高等学校での受験指導の需要は高まっているのではないか。一方で、教員が大学受験の実情を把握できているかは疑問が残る。先行研究のBeppu(2002)では、全国の高校英語科の教員に対し、大学入試で出題される文法事項の頻出度に関する理解度の調査した結果、進学校の教員を含め、多くの教員が入試の実態を踏まえた正しい認識を持っていないと指摘している。社会的な変化から大学入試に対する指導の需要が高まる一方で、現場の教員は多忙な業務を抱えるため、大学入試の実情を把握する余裕が十分で無いことが想定される。このことから、大学入試の傾向・性質を明らかにすることには意義があると考える。

1.2     先行研究と問題点
大学入試の研究に関して、本研究で大きく関与する先行研究を2つ示す。金谷憲(2009)『教科書だけで大学入試は突破できる』では、大学入試に関して、文法に焦点を当て、調査した。分析に当たり、金谷は高校で広く用いられている参考書数冊から、指導で取り扱われている64の文法構文をリストアップした。そして、これらの文法構文に関して、旧帝大を中心とする難関国立大学・有名私立大学での入試を中心に、各問題で問われている文法構文に関して、その頻出度と出題形式を調査した。その結果、難関国立大学・有名私立大学での入試で問われている文法は中学生でも知っている可能性の高い、基本的な文法構文が中心であることがわかった。また、文法問題の知識に関して、直接的ではなく、間接的に問う問題が多いことがわかった。経年変化を確認したところ、間接的に文法構文に関する知識を問う出題形態が増加傾向であることが判明した。
 また、Goto(2011)では、九州地区の地方国立大学を対象に、金谷と同様の観点から、文法構文の頻出度・出題形式に関して分析を行った。その結果は、金谷の難関国立大学・有名私立大学での結果と近似し、九州地区の地方国立大学の大学入試においても、基礎的な文法構文が間接的に問われている傾向が高いことが判明した。
先行研究の分析対象の大学は比較的偏差値の高い国立大学・私立大学での大学入試であり、選抜する学力層が比較的に低い地方私立大学での入試試験は含まれておらず、明らかにされてはいなかった。これらを明らかにすることは、教師が生徒の志望校に応じた大学受験を想定した授業を行う際に、その出題形式を把握した上で、その配慮すべき文法構文を押さえた、効率的な授業の展開に貢献すると考える。

1.3     リサーチクエスチョン
 先行研究の大学入試分析において、地方私立大学での入試試験が含まれていなかったという点から、本研究では中四国地方の私立大学6校を「地方私立大学グループ」とし、この「地方私立大学グループ」の大学入試で問われている文法構文において、(1)頻出度と(2)出題形式に関して明らかにし、先行研究で既に分析されている難関国立・有名私立大学及び、地方国立大学との違いを検討する。



2. 研究手法

2.1.   分析対象となる大学入試群
本研究では中四国地方から6校の私立大学を選抜し「地方私立大学グループ」とした。この6校は、研究対象とする年度に入試が実施されていた大学であり、且つ、入試問題の入手が容易である大学という観点から選抜した。これらの大学は、大手予備校代々木ゼミナールが公開している2013年度用大学難易ランク一覧において、先行研究で調査された大学と選抜する学力層が異なっているとされている。なお、本研究では、先行研究との比較を考慮し、入手できる範囲で後藤(2011)の研究に合わせ、2005年を除く過去10年分の過去問を隔年ごとに分析した。

2.2.   分析対象となる文法構文
文法構文は、先行研究との比較を行うため、金谷(2009)で用いられた64の文法構文リストをそのまま転用した。これらの構文は、高校の指導で広く用いられている参考書数冊から、分析のしやすさという観点において選抜されている。以下の表1において、これらの構文を示す。
1 分析対象となる64の文法構文
It 中心の構文
仮定法を用いた構文
it is … (for/ of~) to ~ <it: 形式主語[目的語]>
if + S' + V' (過去/過去完了), S would …
it is … that [how, if, etc] ~ <it: 形式主語[目的語]>
I wish S' + V' (過去/過去完了/現在) …
it … ~ing <it: 形式主語[目的語]>
as if [though] S' + V' (
it is … that [who, which] ~ (強調)
if only S + V (past / past perfect) …
不定詞を含む構文
if it were not for … /
too … to ~
if it had not been for …, S would…
… enough to ~
it is ( about / high) time S' + V' (過去)
in order to [that] …
with … / without …/ but for …, S would
so as to …
<if節の代用>, S would …
help + someone + (to) ~
関係詞を含む構文
get + someone + to~
what few [little] + 名詞
so … as to
what is more
such … as to~
A is to B what C is to D
分詞を含む構文
such … as ~
have [get] + something + 過去分詞
the same … as~
動名詞を含む構文
否定構文
there is no … ~ing
not … but ~
it is no use … ~ing
not … because
助動詞を含む構文
not … until ~ / It is not until ~ that …
would rather … than ~
it was [will not be] long before …
might as well … as
cannot … too~
比較構文
cannot help ~ing
as … as possible [one can]
cannot but …
…. times as ~ as / … times more ~ than
the last … to ~
the + 比較級, the + 比較級
接続詞を含む構文
as … as any [every] ~
both … and ~
much more/ much less/ still more/ still less
either … or ~
all the + 比較級+ (for)
neither … nor ~
none the + 比較級 + (for)
so … that ~
not so much … as ~
such … that ~
not so much as …
so (that) … can [will, may, could, would, might] ~
no more … than ~
in case … (should) ~
not … any more than ~
for fear … should ~
no less than ~
lest … should~
譲歩構文
scarcely [hardly] … when [before] ~
no matter how [what, when] …
no sooner … than ~
 
not only … but (also)~

2.3.   分析の観点
 文法構文の分析に関して、先行研究の金谷(2009)Goto(2011)同様、直接文法構文の知識を問うているTargeted Question(TQ)と、間接的に問うているUntargeted Question(UQ)という観点で分析を行った。そのため、本研究の結果は大学入試の問題中の単なる出現回数を表しているわけではなく、各入試を念入りに解き、分析対象となる文法構文が上記の観点に該当する場合のみを示している。なお、本研究では、量のある入試を分析するためやむを得ず、解答の根拠を導き出す際に文法構文が含まれているかどうかでカウントしたため、文法構文に関する問いの深さ・機能面は考慮していない。



3.  結果・考察

3.1   文法構文の頻出度
 分析で明らかとなった地方私立大学の文法構文の頻出度を、先行研究で明らかとなっている難関国立・有名私立大学及び、地方国立大学との比較を加え、以下の表2にまとめた。なお、分析された問題数が各グループ間で異なることから、単純な出題回数では比較できないことを考慮し、出題割合で比較・対照を行った。本来であれば、総問題数に対する文法項目の出題回数の割合で比較を行うべきであるが、先行研究での総問題数が把握できなかったため、分析対象となった文法構文での総出題回数における各文法構文の割合で比較している。

2 各入試群での文法構文頻出度比較

 
分析の結果、いくつかの例外を除き、問われている文法構文の頻出度には、大学入試群の間で大きな違いは見られなかった。上位を占める文法構文は一致する部分が多く、これらは中学校で教えられる基本的な文法構文であった。また、下位の文法構文も一致しており、高等学校で学習する比較的細かい文法構文はほとんど問われていないことがわかった。
 一部の例外を以下の表で示す。
3 例外であった文法構文頻度比較

先行研究では最も頻出であった『it is … (for/ of~) to ~ <it: 形式主語[目的語]>』は、地方私立大学での入試において、先行研究ほど出題されていない(6.6%(地方私立大学グループ)19.9%(有名国立・難関私立大学グループ)14.9%(地方国立大学グループ))。一方で、先行研究ではあまり出題されていない『the比較級+the比較級』『help + someone + (to) ~』『get + someone + to~』に関しては、先行研究に対し、地方私立大学の入試において、頻繁に問われている(9.8%4.9%4.9%(地方私立大学グループ)2.2%1.5%1.3%(有名国立・難関私立大学グループ)3.4%0.0%0.0%(地方国立大学グループ))。この理由に関しては、今回の研究対象ではなかったため具体的に示すことが出来ないが、各入試問題を解き進める中で、国立大学の入試に比べ、地方私立大学の入試を構成する各文が比較的短いと感じた。おそらく、長い文は短くパラフレーズされていることが予想される。そのため、長文を導きやすい『it is … (for/ of~) to ~ <it: 形式主語[目的語]>』のような形が現れることが少なく、一方で短い形式で構成されうる『the比較級+the比較級』『help + someone + (to) ~』『get + someone + to~』が頻出であることが考えられる。

3.2    出題形式の違い
分析で明らかとなった地方私立大学の文法構文の出題形式での違いを、各大学での年代別で、以下の表4で示す。出題形式は、本研究対象大学ごとで大きく異なることが明らかとなった。また、同時に、同大学入試においても、年度によってその割合が大きく異なることがわかった。例えば、地方私立大学グループ内においても、とりわけC大学やE大学では、直接的に文法構文に関する知識を問う問題(TQ)の割合が平均して高い。また、D大学では、出題形式の割合に関して年代ごとに一貫しておらず、文法構文に関する知識を直接問う形式(TQ)と間接的に問う形式(UQ)が年度ごとに大きく変化している。

4 各大学における年代別出題形式の差






以上のことから、出題形式において、受験生は自分の志望する大学ごとに異なる対策が求められる可能性が示唆される。ただし、問われる文法構文は比較的易しいために、事細かな文法構文まで重点的に学習する必要は無いと思われる。
また、「地方私立大学グループ」と「地方国立大学グループ」での大学別での結果を以下の表5でまとめた。地方私立大学では、各大学に違いがあるものの、直接文法構文の知識を問う問題の割合が比較的高いことが明らかとなった。地方私立大学での入試には、短文中の穴埋め形式などの直接文法構文の知識を問う問題や、文法構文が含まれない箇所が解答の根拠となる長文問題形式における真偽判断の問題の割合が多かったためと推測される。


5 大学群での文法構文の出題形式の割合の違い
 


なお、金谷で明らかにされた難関国立大学・私立大学に関しては細かい結果が入手できなかったため、割愛している。また、出題形式の結果は、今回の分析対象の文法構文に限られており、カウントされなかった文法構文が少なくないため、全体に対する文法の問題の割合とするのは不適切である。しかし、今回分析対象なる文法構文に限り、その出題形式が偏ることは考えにくいため、出題形式の割合の比較は有用と考える。


4.         結論
地方私立大学では、主に高等学校で教授される細かな文法構文が問われることは少なく、頻出度の高い文法の多くは、一部を除き、中学校で教えられる基本的な文法構文である。先行研究で明かされた難関国立大学・有名私立大学、地方国立大学と比較した結果から、問われる文法構文はその選抜する受験者の学力層に左右されないと推測される。 
また、地方私立大学での入試において、文法問題の出題形式は、各大学・各年度でその形式の割合が大きく異なっていた。また、地方国立大学の入試と比較すると、地方私立大学では直接文法を問う問題が比較的多いことがわかった。



主要参考文献
Beppu, Y. (2001). An Analysis of the University Entrance Examinations Focusing on Some Sentence Structures. LEO, 31, 35-60.
Beppu, Y. (2002).  The Washback Effects of University Entrance Examinations on English Education in Japanese High Schools.  東京学芸大学大学院教育学研究科英語教育専攻 外国語教育講座修士論文
金谷憲 (2009)『教科書だけで大学入試は突破できる』 (pp.13-50). :  大修館書店
Goto,S (2011). Frequency and Question-Types of Grammar Items in Entrance Examinations of National Universities in Kyushu. 広島大学教育学部第3類英語文化系コース 卒業論文
代々木ゼミナール (2012)2013 年度用入試難易度ランキング』http://www.yozemi.ac.jp/rank/gakubu/index.html
文部科学省 平成24年度学校基本調査(確定値)の公表についてhttp://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2012/12/21/1329238_1_1.pdf



Appendix 1  分析対象となる私立大学入試群

大学
分析対象年度
偏差値
平均
最大値
最小値
A大学
2003 2004
2007
 2009
2011
50.3
55
45
B大学
2003 2004
2007
 2009
2011
50.1
53
48
C大学
2003 2004
2007
 2009
2011
48.2
51
45
D大学
2003 2004
2007
 2009
2011
46.8
53
42
E大学
2003 2004
2007
 2009
43
44
42
F大学
2003 2004
2007
 2009
41.9
50
40



Appendix 2 先行研究及び本研究対象大学郡 偏差値の分布
  なお後藤(2011)に関しては学科内の偏差値の提示がない大学が多かったため、学部ごとの集計となっている。




Appendix 3  Targeted QuestionUntargeted Questionの例 
(金谷憲『教科書だけで大学入試は突破できる』 pp.20 – pp24抜粋)

a)    Targeted Question
分析対象項目の文法知識がターゲットとなっている問題(直接その文法項目の知識が問われている問題)Targeted-Questionと名づけた。以下の例では、斜字体の部分が分析対象として選んだ文法項目(構文)である。
1.    その文法項目そのものを入れさせる穴埋め問題
      かっこの中に当てはまる最も適切な表現を選びなさい。
I’ll say goodbye now (   ) I don’t see you again.
もう会えないかもしれないが、今君にさよならを言っておくよ。
in case            イ unless          ウ even if          エ allowing for
(正解:ア / 駒沢大学)
2.    その文法項目が入っている英文和訳問題
 英文を日本語に直しなさい。
The more children she has already had, the greater the chance of having twins next time, regardless of her age.
(正解例:年齢にかかわらず、既に生んだ子どもの数が多ければ多いほど、次に双子を授かる可能性が高くなる。 /中央大学経済学部)
3.    その文法項目が入っている並べ替え問題
 英単語を並べ替え、日本語の意味に合う英文にしなさい。
「私達が職業上どのような道に進もうとも」
what career no our matter paths are
(正解:no matter what our career paths are / 法政大学文学部)
4.    その文法項目の用法に関する正誤問題
 文法的な誤りのある箇所を選びなさい。
I overslept, that’s why I’m half an hour late; and if my phone didn’t ring at nine o’clock, I might still be in bed.
(正解:エ/早稲田大学理工学部)
5.    その文法項目が入っている文を選ばせる問題
 下の文と最も近い意味をもつものを選びなさい。
You would have won the essay contest if you had typed your paper.
                            ア You failed to win the essay contest because your paper wasn’t typed.
                            イ You wouldn’t win the essay contest unless you typed your paper.
                            ウ You won the essay contest in spite of not typing your paper.
                            エ Typing your paper would give you a chance to win the essay contest.
(正解:ア / 早稲田大学理工学部)

b)    Untargeted Question
 特定の文法項目の知識がターゲットとなっているわけではないが、それを知らなければ溶けないような問題(間接的にその文法項目の知識が問われている問題)Untargeted-questionと名付けた。
1.    内容一致問題
a.    正解の選択肢の中にその文法項目が入っている問題
<長文問題>本文の内容と一致するものを選びなさい
ア We cannot say anything about language just by looking at its written words.
イ Words and forms did not exist in former times.
オ It is necessary for the understanding of the nature of language to keep in mind the producer and the recipient of the language.
(本文と選択肢ウ・エは省略。正解:オ / 早稲田大学教育学部)
b.    長文おなかにその文法項目が入っていて、その部分がわからないと正解を出せない問題
<長文問題>本文の内容と一致するものを選びなさい。
(本文)    … With a complete adjustment you not only accept the food, drink habit, and customs of the host nation, but actually begin to enjoy them …
(問題)     In the final stage of adjustment foreign visitors
                ア have no further need of a sense of humor.
                イ come to feel at home in their new way of life.
(選択肢ウ・エは省略。正解:イ / 日本大学人文科学部)
2.    穴埋め・並べ替え・正誤・英文和訳問題などで、その文法項目を直接問われていないが、それを知らないと解けないような問題
      下線部の意味に最も近いものをア~エから選びなさい。
(英文)  He speaks so fast that I can’t take in what he says.
(選択肢) ア comprehend イ consider        ウ believe          エ study
(正解: ア / 駒沢大学)