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2021年2月14日日曜日

【共通テスト】選択肢だけで共通テストは解けるのか?

 

大学院時代に書いた修士論文「多肢選択式問題の選択肢情報が解答に与える影響」をもとに、新大学共通テストでの変更点を簡単に考察しようと思います。



今回は、高校生向けにまとめたスライドをもとにまとめます。






選択肢だけでセンター試験は解けたのか?





大学院時代の修士論文での結論を簡単にまとめます。


大学1年生を対象に、「大問リード文(日本語)」「選択肢(英語)」を抜粋した情報から解答を選択してもらいました。言い換えると、英語の本文を読まずに選択肢から答えを選ぶ実験です。


結果として、全体の平均正答率は35.2%最大正答率は69.0%(第6問 問5)となりました。


(当時の研究では、文法問題の結果も含まれていましたが、今回は共通テストとの比較を目的としているので、長文問題の結果だけを抜粋しています。)



また、被験者には「一般入試合格者」と「AO入試合格者」が含まれていたため、その差に注目してみました。すると、平均点に大きな差が。一般入試の合格者は、センター試験の対策を繰り返し行っていることを考えれば、センター試験の演習量が増えるほど、選択肢から解答を見抜くスキルが磨かれるという仮説が浮上します。(結果の数値に関しては統計的に有意な差が認められましたが、原因についてはあくまで仮説です。)


以上の結果から、「センター試験には選択肢だけで答えを絞り込むテクニックが存在する」という可能性が示唆されます。





選択肢から答えを見抜くテクニック





被験者から数名抜粋し、追加でインタビューを実施。解答選択時にどのような判断を行ったのかを追加で聞き取り、その思考過程を分析すると「選択肢だけで解答を選ぶ」ための3つの方略が見られました。※これらの方略と実際の正答率については確認されていません。



1つ目の方略は「予備知識・常識」を用いた思考です。要は、「センター試験の癖」から解答選択するというテクニックですね。


例えば「センター試験において、非常識な本文の展開はありえない」という思考から、自ずと本文は「道徳的にまともな構成・展開」「社会的に妥当なメッセージを主張する構成・展開」を想起させます。「主人公が大量殺人を犯す」「ゴミは積極的に不法投棄すべきだ」といった文章は、常識的に出題されるとは思えません。被験者は、選択肢から「常識的に解答とは考えにくい選択肢」を排除していました


また、選択肢に「強い否定(no/never)」「強い肯定(always)」が含まれている場合は「本文と一致させないために用いられた語句」とみなし、解答の候補から排除する思考過程も見られました。






2つ目の方略は「問題の配列からの論理展開の予想」です。


センター試験では、各パラグラフごとに設問が設定されているため、前後の問題から本文の論理構成が想像できることがあります。例えば、問2において「太陽光発電は全く役に立たない」という選択肢が含まれていて、問3で「筆者は太陽光発電を推奨している」という選択肢があった場合、どちらかはダミーではないかと想起されます。




3つ目の方略は「選択肢の比較」です。


各設問には4つの選択肢が用意されてあり、それぞれが論理的に干渉している場合があります

ここまで露骨な問題はありえませんので、あくまでも例えばですが、選択肢①「喫煙行為は肺に致命的なダメージを与える」・選択肢②「喫煙行為は周囲の非喫煙者の健康に悪影響を及ぼす」という選択肢が並んでいた場合、命題の重なりから、解答者は「本文には『喫煙=悪い』という展開が行われているのかな?」と想起します。

また、選択肢①「喫煙行為は禁止されるべきだ」・選択肢③「喫煙行為は許可されるべきだ」と並んでいた場合、解答者はその命題の関係性から「二者択一のどちらかが正答かもしれない」と想起します。



 


選択肢だけで共通テストは解けるのか?





大学院時代では、「選択肢の情報が理解できる程度の被験者」が用意できたのですが、現状そのような被験者が簡単には集まりませんので、今回は「センター試験の選択肢から解答を見抜くテクニックが共通テストに通用するのか?」と考えてみます。




まずは「予備知識・常識」を用いた方略で考えてみましょう。


センター試験では、第5問に「物語」、第6問では「論証」が中心に取り扱われてきました。センター試験での物語は起承転結が比較的きれいにまとまっていることから、展開を想像することはある程度可能だったかもしれません。また、万人を想定してまとめられた文章であるため、「常識の範囲内の展開に収束する」という想定から選択肢の排除が可能でした。


一方で、新大学共通テストでは、Readingというタイトルながら、出題される文章は「メール」や「プレゼン原稿」といった相手が明確なコミュニケーションがベースとなる問題が多い印象を受けます。万人に向けられた文章ではなく、特定の個人を対象とした文章であり、前提となるコンテクスト次第で、ある程度の提案の幅が容認されそうな文章展開となっており、一概に「ありえない!」と判断できる選択肢が含まれていませんでした



また、限定的な"no" / "always"といった語が選択肢に含まれていないどころか、選択肢が固有名詞であり、本文の情報をもとにしないと、その選択肢が一体どういったものなのかを想定できない問題が急増しました


以上のことから、「予備知識・常識」を用いた方略は惨敗です








次に「問題の配列からの論理展開の予想」が通用するのかを考えてみます。


センター試験ではパラグラフごとに解答の根拠が存在し、順序を守って出題されていることが多かったのに対し、共通テストでは解答の根拠となる部分が、設問を超えて前後するパターンが頻繁に見られました。さらに、文章の前半にある情報と後半にある情報を統合しないと導き出せない問題も存在しています。共通テストでは正答を選ぶためには文章全体に散らばった情報をそれぞれ見つけ出さなくてはいけません。


よって、「前後の問題から本文全体の構成を予想する」という方略は通用しないようです








最後に「選択肢の比較」を考えてみます。


センター試験では、選択肢のそれぞれの命題が重複・対偶しているケースが見られ、それらを頼りに選択肢を絞り込むことが可能なパターンが存在していました。一方で、共通テストでは、①そもそも固有名詞を選択する問題が多く命題が存在しない ②各選択肢の間に命題の関係性がない という特徴が見られました。


やはり、ここでも「選択肢の比較」という方略は通用しないようです。ぐぬぬ。




【結論】選択肢だけで共通テストは解けるのか?



 結論です。

センター試験で用いられていたテクニックが、新大学共通テストにおいて転用ができないことから、「選択肢だけで共通テストを解く」のは不可能であると結論づけます



 


まとめ(と本音)


大学院時代に「選択肢だけでセンター試験を解けるのか?」というのを研究したのには2つの理由がありました。1つ目の理由は「受験生の努力がテクニックで左右されては惜しいので、真に実力を図るテストになってほしい」という願いでした。そして、こちらが本命なのですが、2つ目の理由は「仮にテクニックが通用するのであれば、自分の携わる生徒には、特別にその力を授け、進路実現に役立ててあげたい」というものでした。


今回の新大学共通テストの問題を見るに、「過去の自分の研究を見られたのでは?」と思うほどに改善されており驚いています。実際、私自身は上記のテクニックを一部活用しながらセンター試験も読解していたので、今回の共通テストを解くのには従来の比にならない時間がかかりました。(単純に文量が増えていたのも影響しているのでしょうが)


「受験生の読解力を図るためにより良い問題になったのかもしれない」と思う反面、コミュニケーションベースの文章で構成されているため、自分自身に関係のない文面を読まされることを強要させられた「作業っぽさ」を感じるテストだとも感じました。まぁ仕方がないことかもしれませんが。


一つ言えるのは、僕の修士論文での分析は無駄になったのかもしれません。(笑)


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