ゲーリー・チャップマンの著書『愛を伝える5つの方法』から、教師として生徒に対して「正しく効果的に愛を伝える方法」について考えてみます。
愛を伝える必要性とメリット
心理学者ロバート・B. チャルディーニは「返報性の法則」を提唱し、マーケティングに大きな影響を与えたそうです。
要するに「されたら返したくなる」という人間の心理を用いるという趣旨。この「返報性の法則」は良いことにも悪いことにも適応されるそうです。
今回、特に注目したいのは「好意の返報性」。相手に好意を向けられると、こちらも好意で返したくなるという心理です。例えば、初対面であっても笑顔を向けてくれた人には、自然と自分も笑顔で対応しようと思う、このような心理は「好意の返報性」に該当するそうです。
教師をしていると、生徒が想像以上に努力してくれて感動するケースに遭遇します。確かに、その努力は「教師に対しての恩返し」ではないのかもしれませんが、ある程度「やってくれた分には応えたい」と思う生徒も少なからずいるのではないでしょうか。
そこで、今回の記事では、この「好意の返報性」を利用し、「生徒に効果的に、正しい方法で愛情を伝え、生徒を良い方向に導けないか」というのを考えてみます。
生徒に「愛を伝える」ってヤバくない?
昨今、セクハラや不祥事に対する対応策として、年間数回研修会を実施されている学校も多く、このあたりには敏感になってしまいます。もちろん、「生徒に対して恋愛感情を伝えようぜ、げへへ」というつもりは微塵もないです。しかし、むしろ問題視されやすい分野だからこそ、どういう伝え方なら問題にならないのか、どのような伝え方なら効果的に伝わるのかを改めて整理して考えてみたいと思います。
「愛の伝え方」は5種類
アメリカのラジオパーソナリティ、ゲーリー・チャップマンは著書『愛を伝える5つの方法』をまとめていました。この「5つの方法」は様々な場面で紹介されていますが、元々この本はガッツリ恋愛に関する方法を紹介した本なので、今回はその中から「教師から生徒に対して愛情を伝えるときに用いることが可能な方法」を考えていきます。
①肯定的な言葉
1つ目の「肯定的な言葉」とは、「愛情、称賛、感謝を言葉で表現する」ということ。アドラー心理学等でも、相手を認め尊重する重要さが述べられているように、他者への承認はその関係性を良好にするようです。このレベルであれば、教師と生徒の関係性でも許容されそうです。
・愛情を言葉で表現する例
「私はこの学校が好きだ!」
「私はこのクラスが好きだ!」
※問題に発展しそうなので、個人に対する「愛情の言葉」は避けるべきかもしれません
・称賛を言葉で表現する例
「こんなに丁寧に勉強できてるなんてスゴい!」
「いつも部活に熱心に取り組んでてスゴい!」
※「やればできるじゃん!」的な言葉は、それまでの生き方を暗に否定しているように捉えかねないので、言うべきではない言葉だそうです。同様に「賢いんだから、やったら出来るのに!」といった相手の持って生まれた素質を褒めるのも同様、教育的に効果的ではないというのをどこかで聞きました、ソースは覚えてないのですが。称賛する場合には、生徒の行動に目をつけると良いそうです。
・感謝を言葉で表現する例
「いつも熱心に取り組んでくれてありがとう!」
「凄く感動しました!ありがとう!」
本心のない感謝は伝わってしまいますが、1を10にするのは可能なのではないでしょうか。感謝に対するハードルを下げておくことは、生きる上でも重要なように思えます。
②サービス行為
③贈り物
3つ目の「贈り物」とは、その通り「愛や好意の象徴として贈り物をする」ことを指します。恋愛では常套手段なのかもしれません。
一方で、公教育でこれをガンガンやると問題に発生します。贈り物の多くには費用が発生します。一部の生徒が露骨に経済的な報酬を得るのはマズいですよね(個人負担も継続的ではないですし、学校から予算が割り当てられるわけでもないですので)。仮に費用が発生しない贈り物を贈ろうとすれば、それ相当の時間が奪われます(これもまた一時的に見れば美談のように思えますが、全く継続的な方法とは思えません)。
よって、②「サービス行為」を超え、③「贈り物」で愛情を表現するのは、教育現場では意識して排除するべきなのかもしれません。別のアプローチで、生徒の心を掴みましょう。(めっちゃやってあげたくなる時はありますが!)百歩譲って、コスパの良い方法を他の教員と共有して実行するのが波風立たずにオススメなのかもしれません。
④クオリティ・タイム
4つ目の「クオリティ・タイム」とは「中断や邪魔の入らない上質な時間で愛情を示す」こと。教育現場では「個人面談」等がこれに該当するのでしょう。邪魔の入るという点で三者懇談は含まれないのかもしれません。
個人的には「中断や邪魔の入らない」という点がポイントなように思えます。私も経験上、昼休みや放課後の時間を活用して個人面談を行った経験があるのですが、全体の進行があるので、制限時間を設定して回転率を意識してしまいがちです。もちろん、クラスの生徒数と時間的な制約を考えると仕方のないことなのかもしれませんが、時間を設定してしまうと事務的なニュアンスを帯びてしまいがちで、生徒が愛情を感じるには少し異なったものになってしまうように思えます。よって、業務的な個人面談とピンポイントで行う個人面談の2つの視点が重要なのかもしれません。生徒指導では「指導のタイミングを見図る」的な言葉をよく耳にしますが、ピンポイントで話を聞く場面の設定を行う際には、時間的な制約を設けず、中断や邪魔の入らない状況を築くことが重要なのかもしれません。ただ、時間は有限なので「制約のない個人面談」は「ここぞという時に使う必殺技」として活用したいですね。
⑤身体的なタッチ
5つ目の「身体的なタッチ」は「セックスや手を握るなど、身体的な接触を通じて愛情を感じる」こと。
一発OUTです。例え同性の生徒に対する愛情表現だとしても、ボディータッチは避けるべきでしょう。軽いものだとしても、後々大きなトラブルに発展しかねないですし、このスキルを伸ばした先に得るものは多くないように思えます。
まとめと本音
生徒に愛情を伝えるためには、「温かい声掛け」「わかりやすいサービス」「個人面談」の3つなのかもしれません。整理して考えると、改めてシンプルですね。
もちろん、返報性を意識せず、「愛情なんてなくても、教育は行える」のは事実かもしれませんし、「好かれなくても良い先生は良い先生だ」とも思います。
一方で、必須条件ではないにせよ、「愛が深い先生だから悪い先生だ」という事例に出会ったことがありません。伝え方の悪い先生はいるのかもしれませんが。
愛情は注いだ分だけ返ってくると信じなければ、いつかプツンと心が切れてしまいそうになることがあるのが教師という仕事のように思えます。しかし、「そもそも愛情をちゃんと注げているのかな?」と疑問を覚えたときに振り返りたい内容だと思いまとめてみました。
セクハラ、絶対ダメ!
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