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2021年5月9日日曜日

脳科学トレーナーの「学び方」の3つのカギ

ジム・クウィック著「LIMITLESS 超加速学習ー人生を変える「学び方」の授業」をもとにしたお話です。


脳科学領域のトレーナーの学習モデル


著者のジム・クイックは一流企業で、学習法の指導や仕事の効率化を訓練してきた、脳科学領域のトレーナー。その彼の学習モデルを「学校」に当てはめてみましょう。



「限界突破」のための3つのカギ


ジム・クイックは、「自分の限界を超える能力を発揮するには、3つのリミットを外す必要がある」と述べ、以下の3つを挙げています。


・ マインドセット(考え方)

・ モチベーション(動機)

・ メソッド(方法)


以下では、それぞれを解説した後、「学校」では何に該当するのかを確認してみます。




マインドセットの限界突破


1つ目の「限界突破」のカギは、マインドセット(考え方)です。


要は「『自分には不可能だ』というネガティブな思想の呪縛からの脱却」です。


我々はつい無意識に自身の行動にブレーキを掛けていることが少なくありません。心理学で言えば「本気でやっていなかったから」という言い訳を用意することで自尊心を守るための自己防衛をとってしまうのがこれに該当します。その発展版が「はじめから自分は無理だと思っていた」という段階。この段階にいると、人はつい「取り組んでも無駄かもしれない」と行動を自ら抑制してしまうことになります。このような心理状態を突破する必要があります。


学校の指導においては、「自己有用感」「達成感」を感じさせる工夫が、このマインドセットの限界突破に該当するように思えます。振り返りの活動等において、自身の成長を感じさせる工夫を取ることによって、次の取組にも積極性をもたせる、といった工夫がこれに該当します。また、前向きな声掛けを徹底することにより、「失敗を恐れない」「探究心を伸ばす」といったフレーズも、この考え方と一致するように思えます。これらの活動は、脳科学的な見地においても重要なことがわかります。

上記では「達成」の方の動機づけに注目しましたが、同様に「失敗」に対する声掛けも必要なように思えます。生徒が何かに失敗した時に寄り添い、再度挑戦する手助けを行うことが精神的な成長を手助けするようにも思えます。努力をした割に、考査の点数が悪かったり、模試で思った結果が得られなかった際に、生徒の戸惑いを冷静に受け止め、見つめられるように分析してあげることが、次の成功体験の効果を倍増させるように思えます。

以上のことから、「達成感を感じ取りやすくする仕組みを設定する」「努力に対する結果を可視化し、認識しやすい仕組みを設定する」「期待していた結果を出せなかったときにはフォローし、次の機会に向けて分析を手助けする」といった工夫を仕掛けることが重要なのかと思います。




モチベーションの限界突破


2つ目の「限界突破」のカギは、モチベーション(動機)です。


要は「強制される」段階を超え、「進んで行動してしまうような原動力を身につける」です。


学校での指導においても、我々は生徒のモチベーションを確保するため、日々様々な工夫を仕掛けていると思います。例えば、「オープンキャンパスに行かせてみる」とか「とりあえず褒めてみる」など、使えるきっかけは雑多に活用しています。(そして、それでも進路に向かって歩き始めない生徒に対して、最終手段として「手遅れになるぞ!」とつい脅し文句を垂らしたりしてしまいますよね、、、あれっ、私だけでしょうか?笑)


本書には「モチベーションの限界突破」のために、いくつかのテクニックが紹介されていました。それらを踏まえると、従来の雑多な活動の効果が飛躍的に上がりそうだと感じました。



【モチベーションを限界突破するテクニック(抜粋)】

自身の価値観を明確にしておく

生活上のストレスを減らす



①については、「生徒の価値観を明確にするステップを必ず設定する」ことで組み込めそうです。ついつい、この「自分を見つめる」というステップをすっ飛ばすことがあります。『重要だと思うことは何か』『他人よりストレスを感じにくい領域は何か』を土台として固めていないと、簡単に夢や進路は揺れ動いてしまいます。

余談ですが、かつて私も、いきなり「もう志望校は決まっているよね?進路希望調査をします!」と手順をすっ飛ばして行うことが多々あったように思えます。思えば、大人でさえも日々価値観は変容しています。例えば、昨日許せなかったことが今日は何故か許せてしまったり、絶対にやりたくないと感じていたことが意外と苦ではなくなっていたり。一方で、価値観の中で変容しない部分も存在します。私は「疲れは一時的なモノだが、経験は長期的な糧になる」という考えから、ブッキングしていない限り滅茶苦茶なスケジュールを立てることが多々ある人間なのですが、これは過去も未来もあまり変わっていません。根底には、思春期に感じた「死んだら無になる絶望感」に由来する、揺るがない価値観があるのだと思います。このような、自身の揺るがない価値観を明確にすることはより重要なことに思えます。言い換えれば、「自己理解」のステップを軽んじてはいけない、ということなのかもしれません。

とはいえ、最近感じることなのですが、生徒に「自分のことについて考えてみよう!」と言うと、その切り口の少なさに面食らうことも少なくありません。「寝るのが好き」「テレビ見るのが好き」など、単純な行動の嗜好にとどまってしまうケースが多いのではないでしょうか。割とどの学校でも、入学してすぐに「自己診断」の外部テストを行っているのではと思うのですが、無知なことには認識が及ばないという事情を踏まえると、そのような項目が挙げられているような自己診断の結果を踏まえ、その先の自己理解を土台として自身を考えるように設定していかないといけないのかもしれません。(心理テスト感覚で「おもしろいねー」程度で軽んじていた自分を滅茶苦茶反省しています。)


②についてですが、ここでの「ストレス」には、栄養・睡眠・人間関係等も含まれます。「ストレス」については、学校を超えた視点で考えないといけないと思います。人間にはある程度のストレスは必要だとも思いますが、モチベーションを阻害する要素であることを踏まえ、クラスの様子を見ながら、時に不要なストレスを適切に発散させてあげるような視点も持ち合わせていなければ最高のパフォーマンスは引き出せないのかもしれませんね。



メソッドの限界突破


3つ目の「限界突破」のカギは、メソッド(方法)です。


要は、慣習的な方法を脱し、「脳が最も高いパフォーマンスを発揮する手段を選択する」です。



学校での指導において、我々は「わかりやすい授業」への工夫を凝らしている部分が該当しそうです。プリントの説明やワークシート全般において、「どう教えたら学習効率が高まるのだろう?」と、日々メソッド(教授方法)を試行錯誤していると思います。


本書には「メソッドの限界突破」のために、脳科学的見地から複数の状態が紹介されていました。あまり授業内には取り入れづらいと感じたので、サラッと紹介します。(むしろ、以下の観点は、勤務中の我々教師にこそ必要な工夫なのかもしれません。)



【メソッドを限界突破するテクニック(抜粋)】

シングルタスク(GTD)

意識的にフロー状態を生み出す



①については、「複数のことを同時並行で進めない」ことです。GTDという仕事の処理方法が紹介されていました。Getting Things Downの略称で、要するに「複数の仕事について、並行で進めるのではなく、順序を付け、一つずつ潰していく」という進め方です。人間の脳の構造的に、複数の作業が並行して進行すると、1つの作業の進行中にもジリジリと他の作業への意識により集中力がすり減ってしまう。さらに、作業を終える度に得られる達成感が次の作業への起爆剤になる。これら2つの点からも、作業については、マルチタスクで進めるのではなく、順序立てて1つずつタスクを潰していったほうが集中力を持続させることが可能だそうです。

生徒がマルチタスクを求められるような場面は少ないのかもしれませんが、「to doリストを作成し、順序を決めて学習をすすめる習慣を作りましょう!」くらいの声掛けは有効なのかもしれません。


②については、作業に没頭した「フロー状態」に突入しやすい状況を自身で設定するというテクニック。確かに、没入感を意識的に引き起こす事ができるなら作業(学習)効率はぐんと高まりそうです。フロー状態に入るポイントとして、以下の要素が紹介されていました。

・集中を削ぐものを排除する 

・十分な時間を確保する 

・好きなことを行う 

・到達点を明確にする 

・少しだけハードルを高く設定する 

正直なところ、上記の項目については、自身で操作できないような環境要因も含まれているような気がするので、全てをうまくコントロールすることはできないような気もしますが、一応参考程度にまとめておきました。フロー状態を引き起こしたい、と考える際には抑えておきたい着目点です。



まとめと本音


前回まとめた「才能の正体」を踏まえ、教師がやるべきことで述べた部分と共通している点が多かったように思えます。『才能を伸ばすためには「認識」「動機」「情意」をケアしよう』という趣旨をまとめましたが、「認識」=「メソッド」、「動機」=「モチベーション」、「情意」=「マインドセット」と置き換えると、ほとんど同様の内容に思えます。

「脳科学のプロがまとめた!」という趣旨の本でしたが、冷静に「学校」に照らし合わせると、誰かしらが重んじている要素のなぞりのような内容であり、逆に言えば、このような本を読むことで、自身が軽視している部分を改めて考えさせられるチェック的な要素として用いることができれば、と感じました。 


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